「これは、いつか娘に譲るから……」
産地へ仕入れに行くたび、私はそう自分に言い訳をしてきました。そうして長年、家族に内緒で(?)こっそり手に入れてきた着物たちが、私にもあります。
人間国宝だった故・宮平初子さんの「首里の織物」同じく人間国宝だった故・与那嶺貞さんの「読谷山花織」、そして重要無形文化財の「越後上布」など多数揃っています、、、😅
振り返れば、あの時無理をしてでも手に入れた自分を褒めてやりたい。それらは今、私の人生を彩るかけがえのない「軌跡の宝物」になっています。
「愛と狂気」の別注
先日沖縄から届いたばかりの箱を開けた瞬間、そこには静かに、かつ圧倒的な存在感を放つ布がありました。
別注させて頂いていた 山口良子さんの経絣入の両面花織と山城有希子さんの道頓織(ロートン織)の着尺が上がって来たのです
「わあ〜素敵……!これ、いいなあ……」
ニヤニヤしながら独り言を漏らす私に、周りのスタッフからは冷ややかな視線が。私の「紬バカ」の本性が、またしても露呈してしまった瞬間でした。
正直、首里の織物の着尺をこんなに揃えているところは他にありません。
帯は回転が早く、商売もしやすい。対して着尺は、制作者に限りがあるとともに膨大な時間がかかり加えて高額です。多くの業者がリスクを恐れて手を出せないことから首里の着尺は非常に希少な存在となっているのです。
しかし、私たちはあえて逆を行きます。なぜ、そこまで執着するのか。
それは、全身を包み込んだ時の「光の動き」や、纏った瞬間に背筋が伸びるような「高揚感」こそが、首里の織物の真髄だと信じているからです。
「人間国宝」のDNAを受け継ぐ者たち
私がここまで首里の織物に惚れ抜いたのは、故・宮平初子さんや故・ルバース吟子さんとの出会いがあったから。お二人が守り抜いた美学は、今も次世代の作り手たちに脈々と受け継がれています。
・人間国宝:祝嶺恭子さん
・県指定無形文化財保持者:安座間美佐子さん、山口良子さん
・宮平一夫さん、赤嶺真澄さん、上間ゆかりさん、山城有希子さん、宮国文愛さん、吉浜博子さんなど
ここには書ききれない素晴らしい作家の皆様の力を借りて、この「最高に美しい一反」は生まれます。

本音を言えば「嫁に出したくない」
2026年秋、首里城の正殿復元や組合設立50周年と歴史的な節目を控えた今、首里の織物はかつてないほどの熱気に包まれています。
1月に開催した小売店様仕入れ会「希少夏物つむぎ展」でも、王家ゆかりの最高格式・首里花倉織を特集しましたが、審美眼のあるバイヤーの方々がその美しさに息を呑む姿が印象的でした。
商売人としては失格かもしれませんが、こうした作品が届くたび、私は「売れずに、ずっと近くに置いておきたい」と本気で思ってしまいます。手元からなくなるのが寂しい。そう思わせる魔力が、これらの布には宿っているのです。
一生モノとの出会いが、人生を豊かにそして強くする
けれど、かつての私が「いつか娘に」と言い訳をしながら手にしたあの時のような感動を、ぜひお客様にも味わっていただきたい。
「一生モノに出会う」ということは、人生を少しだけ豊かに、そして強くしてくれる経験です。
「紬バカ」のおじさんが惚れ抜いた、首里の織物の結晶。
その輝きにどこかで出会ったら是非足を止めてみてください
かつての私がそうだったように、あなたにとってもその一反が、いつか「あの時、無理をしてでも手に入れてよかった」と思える、人生の戦友のような存在になることを願っています。
